寺山修司原作、蜷川幸雄演出「身毒丸 ファイナル」(2002)

2007-01-29

藤原竜也×白石加代子 身毒丸ファイナル



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観劇週間となった修論提出後の休暇も、今日が最終日。
締めにふさわしい作品でした。はっきりいって、すごいです。

蜷川幸雄演出のロンドン公演で、15歳の新人が大絶賛された」との記事を読み、
「神が愛でる人ってほんとにいるんだなぁ」と思ったのが数年前。
それが藤原竜也でした。
それまで本格的な舞台経験なく、いきなりオーディションで主役に抜擢。
このDVDの特典映像の中でも、演出家蜷川幸雄が「僕の言っていることを理解する細胞がある」と絶賛していました。

何年も何年も下積み努力して、脇役すらつかめない役者もいれば、
15歳という若さで演劇の国イギリスの初舞台・主役で絶賛されてしまう役者もいる。
本当にこの世は不公平にできているものです。
ここは「それは才能がないからだよ。大声で騒ぐほどのことじゃない」と、
「ピンポン」の月本ばりにニヒルな構えを保ちましょう。

このDVDを観る前に、同じ「身毒丸」の武田真治バージョンを観たわけですが、
武田真治氏には申し訳ないが、はっきりいって格が違う。
もちろん、身毒丸の美少年ぶりが鍵になるこの作品、
武田氏も美しさという意味では、その役割をまっとうしてたと思うんですが、
蜷川作品の派手な舞台では、武田氏ではやや線が細すぎたかと思います。
しかも相手役は白石加代子
あの大女優とまともにわたりあってる藤原氏(15歳)の方が異常です。

イギリスで絶賛されただけのことあって、藤原竜也の存在感、本当にすごかった。
この戯曲は台詞が現実離れしてるし、後半で発狂する場面もあるんで、
生半可な演じ方だとかなりしらけてしまうんですが、
体のキレもよく、台詞まわしもよく、奇跡の人とはこのことだーね。

有名な台詞、「おかあさん、もういちどぼくをにんしんしてください」を、
官能的かつ感動的に読める役者って、そうそういないと思うんだが。
継母との禁断のラブシーンで、身毒丸が「だいてください、だいてください」
とうわ言のようにつぶやくシーンなんて、もう禁断すぎて笑いがでちゃったもんね。
身毒丸」は、盲目の美少年と継母の怪しくも美しい禁断の恋の話だから、
この怪しさと美しさを表現できる役者を見つけた時点で、
この舞台の完成度はかなり上がったということなのでしょう。

ただ、こないだ観た野田秀樹演出の「ロープ」では、
藤原竜也の演技力って評判ほどではないな(それでも十分うまいけど)、
と思ったので、「身毒丸」はほんとにハマリ役だったんでしょうね。
蜷川幸雄との相性がいいというべきか。
多分、緩急ある演技とかナチュラルな演技が重視される芝居では、
「天才的」とはいわれないと思う。
まぁでも、デフォルトで平均以上の演技できちゃうから問題ないでしょうけど。

武田真治バージョンのときからは、脚本もかなり修正されていて、
物語として相当分かりやすくなっていました。
特に、継母「なでしこ」の連れ子が拾い子で、なでしこの実の子ではない、
という説明が入ることで、後半のなでしこの狂気が分かりやすくなりました。
あと、「家族あわせ」ゲームのシーン前後の冗長さもカットされてたし。
そういう意味では、藤原竜也の演技が注目されるけど、
脚本・演出もほぼ完璧に近いものになっていたと思います。
ただ、途中で挿入される謡曲みたいな歌は、どうも苦手ですが。

今まで、蜷川作品のゴテゴテした派手な舞台は苦手・・・と思ってたけど、
この作品は良かったです。
禁断の恋の背景になってる「イエの呪縛とそこからの解放」の描き方も好き。
金のかかった舞台って、完成度が高いと本当に素晴らしいですね。

そんなわけで、強くオススメ。
評価 ★★★★★