寺山修二・蜷川幸雄「身毒丸 復活」

2008-04-02

白石加代子×藤原竜也の「身毒丸」が,アメリカ公演に向けて10年ぶりに再演されることになったというニュースを聞いて,発売早々にチケットをとった今回の公演.埼京線の「与野本町」にある埼玉芸術劇場まで出かけて,観てきました.生「身毒丸」.

いやー.すごかった.寺山修二作品の怪しくいかがわしい雰囲気を,蜷川演出の美しい色彩感覚とダイナミックな舞台構成が,より幅広い客層に訴えるエンターテイメントとして昇華させた云々かんぬんといったことは評論家の方々が言ってるとおりだなと思ったし,まぁ好き嫌いはあると思うけど,アングラと商業演劇の融合という意味では,一つの到達点に達している作品だと私は思います.と言っても,そんなに商業演劇を観てるわけじゃないから偉そうなことは言えませんが,ニナガワすげー,と素直に思いましたよ.しかし,公演終了後にパンフレット売り場に行ったら,身毒丸グッズが沢山売られていて,ちょっとなんだかなぁという感じはした(欲しがる人がいるのは否定しないけど).ま,ホリプロですし.

で,一応「歌劇」なので,歌やら踊りやらが結構出てくるんだけど,どれも微妙に安っぽかったりいかがわしかったりインチキくさかったりして,そこがまた寺山ワールドな感じで良かった.セリフまわしも笑えるほど芝居がかってるし.それでも,まさに一瞬一瞬が切り取って飾りたいくらいの美しい照明と舞台構成.劇的な展開の連続に,ちょっと引きつつも,圧倒されて結局は劇世界に引きずり込まれていっちゃう感じ.こぎれいにまとまらないけど下品には落ちず,鑑賞に値するギリギリのラインで持ちこたえてる不安定さ,非常に興奮しました.

最後は,スタンディングオベーションでした.立ってたのは全体の半分ぐらいかな?私も初めてスタンディングオベーションというのをしちゃいましたよ.ちょっと恥ずかしかったけど,でも興奮のほうが上回ってたんで.

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藤原竜也白石加代子の「身毒丸」,本当にハマリ役です.今回は藤原竜也が成長し過ぎてる感じも若干あったけど.身毒丸は「美少年」という設定なので,10年前(藤原竜也が10代半ば?)の時がそのままハマってたんだと思います.今回は,ちょっと声が低くなりすぎてたのと,体も青年らしくなってしまっていて,線の細さが足りない感じでした.こうして書くとものすごく嫌らしい目で見ていたように思われるかもしれませんが,まぁ実際,嫌らしい目で見ていたのでしょう.いやほんとに,「身毒丸」ってエロなんですよ.直接的にエロいことをしてるわけではないんだけど,雰囲気と設定が(もちろんエロだけじゃなくて,エロも含めた切ないお話なんだけどさ).まぁでも,青年らしい身毒丸だったおかげで,継母と恋に落ちる設定にリアリティが増したといえばそうだけど.

そして何より,白石加代子がすごかった.あの不自然きわまりないセリフの数々が,この人にかかれば全く不自然に聞こえない.ちょっと化け物風な演技と外見なので,引く人も少なくないと思うけど,これぐらいイッちゃってないと「身毒丸」は演じられないと思う.正直,今回の藤原竜也は,体が成長してしまってたことを差し引いても,イマイチな出来栄えだった印象があるんだけど,白石加代子がきちんと世界を作ってくれたおかげで,クライマックスまで持って行けたんじゃないかなと思います.DVDで観た前回版よりも,白石加代子は冴えていた.

でもこんなに楽しく観られたのは,すでに一度DVDで観て,ストーリーをある程度分かっていたことも大きいと思います.何というか,この作品って歌舞伎みたいな感じで,決めのセリフやシーンを「くるぞくるぞー」ってワクワクしながら待って,「きたきたきたきたー!!これがたまらんのよねー!」と楽しむ要素が結構あるんで.身毒丸の「おかあさん,僕をもういちど妊娠してください」のセリフも,華麗な装置転換も家族あわせのシーンも,初見でももちろん楽しめるんだけど,知ってて待つ方がもっとエキサイトできる気がしました.

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なんにせよ,埼玉まで来た甲斐のある舞台でした.一つ悔やまれるのは,舞台を正面から観られる席じゃなかったこと.冒頭とラストの街の風景,「家」の各部分が袖から次々と出来上がって「家族」が奥から入ってくる名物シーンを,やはり正面から観たかった.まぁ正面じゃなくても,十分に美しい舞台でしたけどね.あやしい雰囲気好きの方には,是非お勧めしたい作品です.