本谷有希子「幸せ最高ありがとうマジで!」

2008-11-06

Sゼミのお友達Mさんをお誘いして観てきました.

全体的には「まぁ悪くない」というぐらい.
面白いことは面白いんだけど,彼女の劇作の枠組みにちょっと飽きてきたのかも.
「こういう痛い人いるよねー(自分もそうかも)」
っていう「あるある演劇」から,そろそろ次の展開がほしい.

理由なく病んでる人間の辛さとか面白さとか,
矯正しようとしても出来ない諦観とか,そういうメッセージはもう分かった.
別に今のままでも面白いとは思うけど,
そのうち飽きられちゃうんじゃない?って思う.

なぜなら,劇作に反映される彼女の世界観は独特な現れ方をしているけれど,
そしてまさにその現れ方の面白さによって彼女はファンを増やしてきたわけだけど,
その世界観の本質は,ある一定の観客層が共感できる程度の市民的なものだし,
それだけで長期間やっていくには,厳しいものがあると思うから.

もちろん,世界観が飽きられても売れ続ける作家はいる.
演劇には視覚芸術と聴覚芸術の要素があるから,
立体的で美しい舞台構成や,音響・照明・映像等の効果の使い方に長けていれば,
その「舞台デザイン」を観にいくだけでも元がとれる,と観客は思う.

でも残念ながら,今のところ本谷有希子の売りは,世界観の面白さに尽きてしまっている.
もちろん,エンターテイメントを成立させる劇作能力には恵まれているし,
独特な世界観にもとづいた台詞には観客をハッとさせるものがある.
それでも,彼女の舞台構成や効果の使い方は,凡庸と言わざるを得ない.
今回の作品でも,オープニングの音響は攻撃的で良かったけど,それ以外に特筆できる効果はない.

物語後半,だれてしまうのも,台詞に頼ったシーンが長すぎるせいだと思う.
正直,痛い人同士(または痛い人と「正常な」人)の葛藤,という場面は食傷気味.
台詞をもっと削って,他の表現方法を取り入れてほしい.
もしくは,もっと無意味な台詞を過剰に使うとか.テンションを変えるとか.
病的な過剰さが彼女の個性だとしても,
過剰さの使い分けというか,過剰さを際立たせるなんらかの抑制が欲しいところ.

それと,削るとか抑制するとかの作業を含めて,作りこみが不足していると思う.
キャラクターも多すぎてごちゃごちゃした印象.
あと,新聞配達店という設定だったけど,夕刊くるの遅すぎじゃない?
15時頃にしてはすでに夕日っぽい照明だったし.
細かい部分だけど,設定の作りこみが甘いと白けます.

というわけで,本谷有希子には期待している分,結構辛口.
ほぼ毎回観ているので,そろそろ違う引出しを観てみたいと思ってしまうのです.

でも,お金出して観ても「損した」とは思わない出来ではあると思う.
さっき書いたように,オープニングの攻撃的な音響効果には痺れたし,
吉本菜穂子の「芸」は一見の価値あり.
一緒に行ったMさんも,「面白かった」と言っていました.

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ちなみに,今回のヒロインは永作博美
演技技術はそこまで高くなかったけど,可愛すぎてやられました.
もうねー,顔がものっすごい小さいの!!
小柄だけどスタイルいいから何でも似合うし.
いやー.ナマ永作すごかった.

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普段は一人で観にいくことが多い演劇ですが,
今日は観劇後に,Mさんと互いの解釈について話しあえて楽しかった.
批評能力の高い人と感想を話し合えると,観劇の楽しさ倍増ですね.
また行きましょうー.