ぐるりのこと

ぐるりのこと。 [DVD]

お友達のRっちに誘われて,ぐるりのことを観に行ってきました.お誘いを受ける前から気になっていたこの作品,前評判を裏切らない善い作品でした.オススメ.

初めての子供を亡くしたことで鬱病になっていく翔子(木村多江)と,それを見守る法廷画家の頼りない夫カナオ(リリー・フランキー)という夫婦の10年の物語なんですが,単なる「病気を乗り越える夫婦の話」というだけでは終わらずに,希望を失って再びそれを見出していく個人の物語と,90年代に起きた社会的事件の裁判の絶望的な面が同時に描かれてます.単なる「再生の物語」ではないところに,現実の「一筋縄ではいかなさ」を感じられて見応えアリ.

あと,演出上,定型的なものを排除する姿勢みたいなものが徹底されているところが実に良い.
特に気に入ったのが,鬱病の翔子がカナオに感情をぶつけた後,おそらく夫婦として初めて心を通わせるというクライマックスのシーンで(ちなみに,このシーンは涙なしには観られない),翔子とカナオがキスしそうになるシーンがあるんですが,私はそこを観ながら「確かにここは雰囲気的にそういうことになりそうなところだけど,実際にそれをしたら定型的に過ぎるなぁ」と若干ハラハラしていたんだけど,そんな私の心を見透かしたように,ちゃんとリアルな展開になる.その他の細かい部分でも,定型を排除する演出が一貫されててリアルさを感じました(ただ,お風呂のシーンは余計だと思ったけど).

まぁ,とは言え映画ですから,実際に鬱病で苦しんだ経験のある夫婦や家族からしてみたら,「こんなキレイなもんじゃないでしょ」って部分もあると思いますが,人が誰かと共に絶望と希望を経験していく物語としては,なかなかよくできた作品ではなかろうかと思います.あと,翔子と翔子の家族(特に母親)の物語やそれとの関係もまた,なかなかに考えさせられるものがあります(この母親が全くもって「完璧な母」でない).エンドロールで流れるテーマソングも素敵.

木村多江はもともと演技うまいなぁと思っていて,今作も(特に精神的に壊れていくところが)素晴らしいと思ったけど,今作は何といってもリリーさんです.本人も「演技した感覚ない」って言ってて,実際あれが素かもなぁと思ったけど,素か演技かはともかくとして,とにかくリリーさんがいいです.リリーさんの空気感なくしてこの映画は成立しないと言っても過言ではないかと.あの役はちょっとずるいな,しかし.