こまつ座「ロマンス」

2007-08-05

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[公演日程]2007/8/3(金)〜9/30(日)
[劇作・脚本]井上ひさし [演出]栗山民也
[出演]大竹しのぶ/松たか子/段田安則/生瀬勝久/井上芳雄/木場勝己
[会場]世田谷パブリックシアター三軒茶屋
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お友達と、久々の観劇。

劇場に着くまでは、頭痛が微妙に疼くのが困ったものだと思っていましたが、
劇場に入って指定席につくと、まだライトアップされていない舞台装置が見え、
私たちの座った二階席からは、少しずつ埋まり始める客席が見え、
すると、そうか今からお芝居が観られるんだなという実感がいきなり湧いてきて、
気づけば頭痛がどこかへ行ってしまった。現金なものです。

しばらく劇を観に行かないと、開演前の感覚を忘れてしまうのか、
突然訪れるこの激しい高揚感にびっくりしてしまう。
この高揚感を開演までやり過ごし、
静かで真っ暗な空間に、役者の第一声が響く瞬間の幸福感といったら、
ちょっともう、他のことでは味わえないぐらいの喜びです。

なんて素晴らしいんだ、演劇!!

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私の出身地は、人口約60万人の地方都市ですが、
演劇資源に関してはほとんど皆無といっていい土地でした。
中学で演劇に興味を持ち始めて、
高校時代は、戯曲集や演劇雑誌、時折入手できるビデオが、
私にとってのプロの演劇でした。(たいして知識つけなかったけど)
だから都会=東京に行って演劇に浸かることが、高校時代の私の夢で、
進学する大学を決めた理由のほとんど全てでした。

個人的な事情から、学部時代は演劇と離れていたけど、
ここ最近、東京にいて、演劇の近くにいられる幸福をひしひしと感じています。
東京に家のない私が死ぬまでの間、何年ぐらい東京に住めるのか分かりませんが、
いられる間は、後悔しないぐらい舞台を観ておきたい、と強く強く思う。
まぁ、博士課程が終わるまで、
少なくともあと3〜4年は東京にいざるをえないわけですが;

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すっかり自分語りをしてしまいました。
なぜこんなにしみじみ語りたくなってしまったかというと、
今回観た「ロマンス」、すごく良かったからなんです。

冒頭で書いたように、お芝居のオープニングというのは、
どんな作品でもワクワクして痺れるものなんですが、
観てみたらつまらない作品ももちろんあって、がっかりすることもある。
でも今回の作品は、まったくがっかりさせられることなく、
最初のテンションを保ったまま、最後まで楽しく観ることができました。

井上ひさし作の「ロマンス」は、
ロシアの戯曲家アントン・チェーホフの生涯を、
ミュージカル(ボードヴィル)タッチで描いた作品。
ミュージカルは食わず嫌いだったんですが、
それほどゴテゴテした演出ではなかったせいか、
割とすんなり観ることができました。

演出もさることながら、上手の役者が演じたから、
しらけることなく観ることができたのかなぁとも思ったり。
キャストは、大竹しのぶ松たか子 段田安則生瀬勝久
井上芳雄 木場勝己と実力派ぞろい。
台詞回しがスタンダードで、ノリや個性だけに頼れない分、
やはり演技が「芸」として完成されていないとしらけてしまうんですよね。
普段は小劇場系の作品を観ることが多い私にとって、
「上質な役者が演じる上質な演劇」という印象。

もちろん、一人何役も次々と替わりながら進むストーリー、
コミカルなボードヴィル形式、最低限の舞台装置とシンプルな衣装、
回転舞台や照明を駆使したスタイリッシュな演出に新しさを感じつつも、
奇をてらわないまっとうさは保たれていて好感。

ストーリーも、大きな事件やドラマティックな盛り上がりはなく、
エピソードをつないでいく語り口なのですが、
だからこそ役者の演技力が映えて、味わい深く観ることができました。
特に後半、晩年のチェーホフ木場勝己)と妻オリガ(大竹しのぶ)のシーンは圧巻。
思わず、涙が出てしまった。格の違いを感じました。

そのほかの役者も、生瀬勝久は笑いの部分ではさすがという感じ。
松たか子は安定感があって、感情の深みは物足りなかったけど、
まじめでまっすぐな性格の役柄に合った演技。あと、声がものすごくきれい。
段田安則夢の遊眠社出身だから、生で見れて嬉しい(ミーハー)。
やはり助教授役とか、実直でちょっとお人よしな役はよく合う。
井上芳雄という役者さんは初めて観ました。ミュージカル界の人気者だそうです。

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カーテンコールは3回。
私としては、もう1・2回ぐらいあっても良かったぐらいの満足度でした。
まだ開演二日目だから動きや台詞回しで固さを感じるところがあったけど、
それでも演技力の高い役者ばかりの舞台は楽しい。
いいもの見せてもらいました。

評価4.5 ★★★★☆
オープニング、歌で始まるところがちょっと慣れず、マイナス。
それ以外は、S席8,400円では安いぐらいだと思った。
歌・踊り・コミカルタッチのボードヴィル形式は、好みが分かれそう。