野田地図「ロープ」

2007-01-25

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2006年12月5日〜2007年1月31日
Bunkamuraシアターコクーン

作・演出:野田秀樹
主演:藤原竜也宮沢りえ
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主演の藤原竜也といえば、寺山修司原作・蜷川幸雄演出の「身毒丸」で
初舞台にもかかわらず抜群の演技力で注目され、
以来、舞台・映画などで活躍中、若きホープであります。
一方の宮沢りえも、「たそがれ清兵衛」等の映画、サントリー「伊衛門」のCMでも、
しっとりとした透明感あふれる演技で評価を得ている女優です。
そんな二人の演技を観てみたい、というややミーハー的な興味も手伝って、
観劇前の高揚感はかなりのものがありました。

お芝居は、とある弱小プロレス団体で、藤原演じるレスラーが、
「あらかじめ筋書きの決まっている八百長のプロレスは嫌だ」と、
部屋に引きこもるところから始まります。
そこに、なんとか藤原を復帰させたいレスラー仲間や、
プロレス中継で視聴率をとりたい弱小テレビ製作会社が現れ、
あの手この手で藤原を出てこさせようとしているところに、
「未来から来た」という、ちょっと頭の弱そうな宮沢演じる少女が現れる。
いつのまにかリングの「ロープ」の中では、
「正しい暴力」と「正しくない暴力」が演じられ、そして実況されて、
視聴者はさらなる暴力=戦争を観たがるようになる、という展開。

舞台の真ん中に作られたプロレスリングは本格的で装置転換も華麗、
照明も音響もセンスにあふれ、脇を固める役者陣も巧者ばかり。
特にクライマックス、ベトナム戦争の比喩の下りは圧巻。
実況を任された宮沢が、藤原たちレスラー=兵士の残虐行為を、
淡々と、というよりプロレスさながらに煽りながら繰り返し実況する舞台から
目を離せませんでした。
そして野田芝居独特のキーワードの反復によって織り成される伏線が美しかった。

そんな感じで、かなり完成度の高い作品。
ギャグも分かりやすいものが多く、演劇初めての方でも楽しめるのではないでしょうか。
ただ、私としては、ちょっと分かりやすすぎだなぁと。
芝居のかなり早い段階で、ロープの中=世界の枠組みの比喩、と気づいてしまう。
その中で起きるアメリカによる「正しい暴力」vsテロリスト(ベトコン・共産国?)による「正しくない暴力」という対比もすごく分かりやすくて、
その枠組みから逃げ出した兵士=青年の純情(藤原)と、
人類の力に警鐘をならす存在=タマシイ(宮沢)という役柄もすんなり入ってしまい、
特に深く考えなくてもメッセージが読めるから、そのへんちょっとつまんなかったなぁと。

もちろん、宮沢の存在自体は少し複雑で、しばらく考えないと分からない、
そういう分かりづらさはあったんですが、
大枠としては分かりやすいメッセージでした。
メッセージが分かりやすいがゆえに、
ラストは「種明かし」というよりは説教くさく聞こえてしまって、
ジブリドラえもんなどアニメ映画のラストを聞いているような
錯覚に陥りました。ちょっと分かりやすすぎじゃないかなぁ。
私が気づいてすらいない、もっと深ーい含意があるのかもしれませんが。

あと、役者について。
全体的に、声のとおりが悪いように思ったのですが、劇場のせい?
それとも上演日程も後半だから、役者が疲れてるのかしら。

宮沢りえ藤原竜也は、まぁ何と言っても抜群にキレイですね。
立ち姿はもちろんのこと、素晴らしかったのは彼らのその声。
二人とも声がすごく美しくて、なるほど、これは賜り物だなぁと聞き入りました。
劇団でがんばってる役者さんたちに比べたら、
体のキレとか間の取り方なんかは格段に落ちるんだけど(特に宮沢氏)、
演技も悪かったわけではありません。
二人とも今回の役どころにぴったりで、特に青年のナイーブさを藤原氏が、
天真爛漫で時に残酷な純粋さを宮沢氏が好演していたと思います。

個人的には、劇団「猫のホテル」の役者、中村まこと氏が上手だなぁと。
結構、鳥肌モノの演技でした。

そんな感じで、完成度はかなり高い作品ですが、
ちょっと分かりやすすぎたということで、星3つで。

評価 ★★★☆☆