阿佐ヶ谷スパイダーズ・プレゼンツ「イヌの日」

2006-11-15

本多劇場です。
詳細はこちら→http://asagayaspiders.net/
下北芝居小屋すごろくのゴールにあたる本多劇場だし、
役者陣も豪華だったんで、そう大きくは外さないだろうということで。
何より、生の舞台を観たいという欲求が抑えきれなかったのです。

客席は満員だったんで「通路席」。
(通路側の席、ではない。席と席の間の通路に座布団を敷いて座る)
通路席は2回目。
目線が少し低くなってあんまり集中できないから嫌なんですけどね、仕方ない。

感想。
「私はこの作品で2度泣いた。1度目は笑いすぎて、そして2度目は哀しすぎて」
とでも書いておきましょう。

とりあえず、すごく面白いです。
魂を揺さぶられる、というほどではないけど、
十分にエンターテイメントとして成立しています。
演劇好きなら、「6千円なら元がとれた」という気分になると思う。
舞台装置にもお金がかかっているし、
役者には穴がないし(強いて言うなら、美保純が少しだけ下手)、
ストーリーも、トラウマとかゆがんだ母子の愛とか差別とか貞操とか恋とか、
色々複雑ですが、基本的にはコメディタッチで、最後はちょっと哀しい終わり方。

小劇場系って当たり外れの落差が大きくて、
劇場にいって2時間以上も動けなくて(大体客席は狭い)、
結果つまらないと、本当にがっかりするもんです。
私があんまり劇場に足を運ばないのは、もちろん貧乏が一番の理由なんだけど、
お金払って2時間も無駄にしたくない、がっかりしたくないって理由も大きい。
だから定評のある劇団や作品のDVDを買ったり借りたりして家で観るんです、
そのほうが安心できるし感動できるから。

その意味で、この作品は「プロ」が作った作品として、
「芸術」とはいえないかもしれないけど、
「娯楽」としてはかなり満足のいく作品でした。
がっかりしないので、もし興味ある方は行くことをオススメしますよ。
生で観た方が絶対面白いし。


以下、何点かメモ書き。

・舞台は3つの空間に分けられており、上演が終わるまで装置転換は一切なし。
・3つの空間はそれぞれ、舞台の下段(=地下壕)、
 舞台上段上手側(=息子の部屋?)、舞台上段下手側(=母親の部屋)。
・よって、それぞれの空間で役者たちが同時に動いているのを観ることができるという、
 まさに映像ではうまく楽しめない、舞台ならではの構造になっている。

・地下壕で喋る台詞に、わざとエコーがかかるようになっている。
 どういう仕組みなのかは謎。
・照明がいい感じである。地下壕のランプ、後半のライターなど、
 これも暗転する舞台と客席をうまく使ってた(暗転後の効果的な光の演出)
・役者に穴がないのは前述の通り。特に八嶋智人の巧さが際立ってた。
 もともと好きな役者だけど、前に何かの作品で観たときより、
 動きや台詞まわしにキレが出ていて見直した。
 はまり役だからというのもあるけど、間合いの取り方が天才的。すごい。

欠点もいくつか。
・クライマックス後のエピローグが冗長。
 クライマックスがよく出来ているだけに、もったいないの一言。
 ちなみに私はクライマックスで泣いた。演劇観て涙こぼしたのって初めて。
 それぐらいよくできてたのだ。役者の演技も完璧。
 客席からも鼻をすする音が聞こえてたから、結構泣いてた人いたと思う。
 あのクライマックスの気持ちのままで劇場を出たかった。惜しい。
 エピローグはもう少し抽象的な流れにしてもよかったんじゃないかなぁ。
・オープニング、いきなりセックスシーンで始まるのは、個人的に好きじゃない。
 物語の中でのエロ・下ネタはOKなんだけど、オープニングでいきなりはちょっと。
 抽象的な始まり方が好きなんで。生々しすぎ。しかもあの色気の美保純だし。
 まぁこの作品の場合、エロ(というか貞操)がテーマと深く関わりあってるから、
 オープニングに持ってくるのも分かる気はするけど。
 まぁこれは個人的な好みの問題ですね。