舞台・小説『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』

2006-08-20

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

講談社

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話題の本谷有希子、小説から読んでみました。
うーん、この人は「小説家」ではないなぁ。
小説として読むには、ちょっと完成度が低かった。
もともと戯曲だったものを小説に書き直したらしいんで仕方ないのかもしれませんが。
小説じゃなくて舞台の解説書としてこれを読むと、
「なるほど、そういうことだったのか」と理解が深まると思います。

小説を読んだあと、「やっぱ舞台が観てみたいな」と思ったのでDVDで観劇。
小説がつまんなかったので、実はあんまり期待してなかったけど、
やっぱこの人は舞台屋さんだと思った。ものすごく面白かった。

役者陣がかなり上手だから、って部分もかなりあるけど、
多分、演出家がテンポをかなり早く持っていくように作ってるのが成功の一因。
ストーリーとしては、才能がないくせに自意識だけが過剰な女とその家族の話で、
何と言うか、特に目新しい設定とも言えないし、
下手にやっちゃうと、やたら暗くて鬱陶しい作品になりそうなところを、
このテンポの早さで商業演劇になってるのかもなぁと思ったり。

あと、リアルなキャラとデフォルメされたキャラのバランスが良かった。
まぁこれは役者さんの巧さというのに尽きるかもしれないけど、
脇役が巧いと全体が締まるというのは本当ですね。
主役である和合家の兄姉妹たちはごく普通のキャラクターなので、
逆に演じるのが難しそうでした。
やっぱ奥さんの待子と友人の好雄役が秀逸。
これも「専属の俳優をもたない『プロデュース・ユニット』」ならでは、
ということかな。
俳優かかえちゃうと、作品の傾向がワンパターンになりがちだもんね。

こないだの読売新聞で、
「小劇場出身の俳優で成功した人は数多くいるが、
 小劇場出身の女優には華がない人が多く、決して成功しているとは言えない。
 舞台にもアイドルを起用して、その天真爛漫さをもっと活用した方が
 演劇界は成功するのではないか(「下北サンデーズ」がその好例だ)」
ということを書いていた評論家がいて、確かにそうかもなぁ、と思う反面、
その華のなさ、天真爛漫じゃなさが、小劇場女優のよさなんじゃないか、
という気もした。

この『腑抜けども』を観たあとは、そういう小劇場女優の華のなさっていうのも、
演出次第でどうにでも面白く作れるんじゃない?という希望が持てます。
そういう意味で、上手な作品だったと思います。